6月16日(月)
今日は、することがいくつかあるぞ。まず、日本領事館に行って在留届を出すぞ。布団を買うぞ。ハガキを買うぞ。タイツを買うぞ。その他昨夜作ったショッピングリストのものを手に入れるぞ。そして戻ったら掃除機をかけて、洗濯をするからレセプションにどうやって掃除機を借りて、どこに洗濯機や乾燥機が置いてあるかを聞くぞ。
気まぐれな私にしては珍しく、一日どう動くかをこと細かく計画してみた。
そうはしてみたものの、のろのろと朝食を取っていたら11時にもなってしまい、外に出たら昼時になっていた。銀行に行き、キャッシュカードがまだ送られてきていなかったので窓口でお金を引き出しに行った。ちょうど私の番で機械が故障してしまい、他の支店へ行くことになった。到着した日にトラベラーズチェックを両替した支店に移った。引き出しはスムーズに行った。
領事館は、メルボルンセントラルの裏側にある46階まであるメルボルンセントラルタワーの45階にあった。スーツを着こなす社会人がコーヒー片手に行き交っているビルだった。
領事館に着くと、なんと昼休み中で閉まっていた!とほほ。14時からまた開くというのでそれまで他の用事を済ませようとタワーを離れた。
郵便局に行き、カード数枚をエアメールで出し、ついでにエアログラム10枚、ハガキ数枚を買おうと思った。ビクトリア州の写真集とメルボルンのブックレットも売ってあり、この2冊を親に送ってあげたくなり、それも購入した。入った郵便局は郵便ショップでもあり、郵便に関するさまざまなグッズが置いてあり、とても楽しめた。プリペイドの封筒、プレゼントを贈る用のかわいらしい封筒、文具、と思わず郵便物を送ってしまいたくなるグッズが店内に飾られていた。人でにぎわっており、郵便局がこんなにも楽しいところと思えたのはここが生まれて初めてだった。MYERSに入り、タイツをぱぱっと買った。寒くて靴下だけではやっていけない。
領事館に戻り、在留届を出した。領事館はこじんまりとしていた。奥にはスクリーンが張ってあり、京都の映像が流れていた。見慣れている京都とはまた違う京都で、自分はオーストラリアにいて、これから日本を観光する客になった気分だった。常に何か映像が流れているらしく、邦画も定期的に映しているようだった。たまにはここに来て、邦画でも見ようかな、と思った。日本について本も数十冊置いてあった。ほとんどが古い本だったが、バリエーションはあった。雑誌も置いてあった。日本からランダムに持ってきたような壷や芸術作品が並べられていた。テーブルには、月刊の日豪プレスが大量に置いてあったので一部もらってきた。そうしているうちにとてつもなくおなかがすいてきた。
バーク・ストリート方面にてくてく歩いていると中華街にでてきて、まだどのお店がおいしいかなどわからなく、しかも小道の方に入って散策している余裕もないほど空腹になっていたので適当にメインストリートに面したレストランに入った。後々食べ過ぎてお腹がもたれてきてしまい、自業自得反省した。やはりオーストラリアンサイズには徐々に慣れていったほうがよさそうだ。
6月号の日豪プレスに目を通してみた。一面は連邦政府の新年度予算案についてで、2年ぶりの黒字財政を目指すとのことだ。オーストラリアの政治背景なども徐々にお勉強していきたいと思った。オーストラリアのニュースと日本のニュース以外にも、オーストラリア在住の日本人に役立ちそうな法律、健康、ビザ、保険に関する情報が多く記載されてあった。
待ちに待った布団を買うときが来た。羽毛布団にしよう。どれも日本で言えば夏布団くらいのものしか置いてなく、店員に「これは夏も冬も使えるのか?」と聞いたら、「いや、これらは夏には使えませんね。冬専用ですよ」と、いったいこの子は何を言っているんだ、というような驚いた様子で即答した。「メルボルンでは夏はみなさん何で寝ているんですか?」と聞くと、「シーツ一枚かタオル一枚か。個人的には何もかけないですけど」と丁寧に返答してくれた。「お客さん、オーストラリアに来たばかりですか?」と、にこっと聞いてくれ「着いて今日で4日目だ」というと、なるほどね、という顔をした。「Welcome to Melbourne」と歓迎してくれた。まさか布団販売員のお兄さんに歓迎されるとは。変な会話だったが、とりあえず冬は薄い羽毛布団で、夏は暑くてあまり何もかけないということが分かっただけでもよかった。
布団カバーとフラットシーツも買った。せっかくだからかわいいのがほしいと念入りに探したが、どれも気に入ったのはクイーンかキングサイズ用。ダブルでさえもなく、シングルは限られていた。かわいいのを見つけると、これだ!と気分が高揚して、シングルサイズがないことが分かってがっかりして、とこれがずっと続くと、どうせシングルさ、とむなしくなってきたが、自分で適当にコーディネートするのもおもしろくなってきて、色の組み合わせを大事にカバーやシーツをセットでなく別々に買った。最終的には満足いくものが買えた。布団カバーに2時間もかけてしまった。
手荷物が限界に達しているのにもかかわらず、タオルが足りないことに気付き、タオルも衝動買いしてしまった。指がちぎれそうになりながら帰宅。買い物を取り出し、片付け、掃除機を借りにレセプションへ下りた。洗濯物と洗剤を片手に、あるだけのコインと10ドル札をポケットに差込み、使い終わった掃除機をもう片手に下へ降り、ランドリーの部屋を教えてもらった。一回の洗濯はいくらかかるかなどの詳細がどこにも書いていないことに気付いた。もしやランドリーには世界共通の常識みたいなものがあるのか、と思ったが、アメリカもカナダも違ったし、オーストラリアも違うにちがいないと思った。それよりいくらなんだ、どこかに書いてあるはずだ、ときょろきょろしていると、背の高い白人の男の子が入ってきた。一回の洗濯で2.60ドル。乾燥機は25分で1ドル。両替コインはたくさんあるから、必要ならレセプションに行けばよい、と教えてくれた。「それより僕はマルクス、あなたは?」とドイツなまりの丁寧な英語でフレンドリーに話しかけてくれた。「あきなっていうの。よろしく。マルクスはドイツからね。すてきななまりよ。すぐ分かった」と言うと、「よくわかったね。そう、ドイツからだよ」と返事をした。彼はドイツの大学の医学部で勉強をしていて、2ヶ月メルボルンのある病院で研修に来ていた。正統派な青年で、礼儀正しかった。今週末にはもう帰国してしまうらしい。日本から来たというと、目を見開いて、とても興味を示してくれた。こっちにきてデスクランプと、あまりにも寒くてラジエーターを買ったんだけれど、よかったら安く買わないかと聞いてくれた。いくらかとたずねると、デスクランプは10ドル、ラジエーターは40ドルでどうかと言った。とりあえずものを実際に見たいというと、いいよ、と言ってくれ、洗濯が終わるまでの時間、彼の部屋に遊びに行った。
まず部屋に入ると、家具がいろいろ移動されていて、巨大なウォンバットのぬいぐるみが部屋のど真ん中に置いてあった。コアラの親戚といわれるずんぐりとした動物で、カンガルーやコアラと同様の有袋類ということだけは知っていた。
「ウォンバットのファンのようね」と言うと、「ウォンバットを知っているの?」と声が急に弾んだ。ウォンバットが相当好きらしく、デジカメで多数も収めたウォンバットの写真をパソコンで見せてくれた。こっちにいる間、ウォンバットやコアラやペンギンを見にいくといい、とそれらの動物を確実に見られる近場を片端からリストアップしてくれた。大体1mくらいの体長に体重は約30Kgで、のろそうに見えるけど、時速40Kmものスピードで駆けることもできるんだ、すごいだろう、と、ここ東南部でみかけるのはコモンウォンバットといって、もっと内陸にいくとヘアリーノーズウォンバットが生息しているよ、と楽しそうに話してくれた。ここまで好かれれば、ウォンバットも光栄にちがいない。早くもウォンバットに会いたくなってきた。
相当なウォンバット好きの前に彼は相当な寒がり屋さんでもあった。窓際のベッドはキッチン寄りに移動されてあり、布団も私が今日買ったものよりさらにふかふかので、部屋のドアの下の隙間からくる冷たい風防止のために詰め込むトレーナーやらタオルもドアのそばにスタンバイOKだった。売ってくれるというラジエーターはベッドの足元に置いてあった。彼の寒さを克服する涙ぐましい努力に思わず笑みがこぼれてしまう。初めの夜は毛布一枚で寒かった、と話を持ちかけると、「凍死寸前だったよ」と真顔で即答するから笑えた。きっと彼にしたら本当に凍死するかと思ったのだろう。確かにあれは冗談抜きに寒かった。「あきな、もしかして未だに毛布一枚なの?」と心配そうに聞いてくれ、冗談で「もちろんよ」と答えると「クレージーだ!でもラジエーターは僕が発つまで渡せないよ、わるいけど」と言った。「冗談よ、まったく。今日買ったわ、布団」とこんな会話が続いた。
デスクランプは、実用性よりデザイン重視のものだった。私は手紙を書いたり、本や雑誌を読んだりと、明かりを必要とするので、ほしかった。10ドルはお手頃な値段だし、もっと安くしてもらうこともできたのだろうけど、彼のウォンバットの説明や寒さの克服があまりにもおもしろくてエンターテイニングだったので、それでいいことにした。ラジエーターも上等なもので、80ドルのものを彼は60ドルで手に入れ、それを40ドルで買うのに問題はなかった。もしかしてもっと安くなるものなのかもしれないけど、机に、「大セール!デスクランプとラジエーターほしい人!」と広告ポスターまで何枚か作っていたことに気付いて、彼の熱心さに40ドルでOKにした。「こんなに早く貰い手が見つかって、広告を貼るまでもなかったね」とポスターを指差して言うと「あぁ、これね。一生懸命作ったんだ。売り物のアピールはいいんだけど、肝心の僕への連絡先をタイプするのを忘れていて、どちみちこのままでは貼れなかったよ」と照れ笑いした。確かに、これを見てほしくなった人は連絡のしようがなく、もらいようもない。そう思うと、心打たれたのになんていい加減なポスターなんだ、と思うが、完璧に見えてどこか抜けているところがおもしろかった。デスクランプは10ドル札がちょうどあったのですでに払った。ラジエーターはデポジットを払うことにした。
今度は、私の部屋に来てもらい、とりあえずデスクランプを置いて、デポジットを払った。そして二人で下に行き、洗濯物を乾燥機に入れ、日曜日の朝にラジエーターを渡してくれることを約束し別れた。
昨日作ったタイ風やきそばの材料がまだ残っていたので、10時くらいになっていたが、遅い晩御飯を作って食べ、おなかいっぱいになりすぎて気持ち悪くなったので、夜の散歩にでかけることにした。
ついでに駅前の24時間オープンなスーパーまで行って今日買えなかった日用品を買って、その前にインターネットカフェでメールチェックでもしようと思った。
11時くらいのメルボルンはしーんとしていて、暗くて、怖くはなかったが、人気はなかった。冷たい中歩くのは気持ちよかった。メールをぱぱっと読むだけ読んで、スーパーへ行くと、夜勤が終わった人や、夜食を買いにきた学生やらでにぎわっていた。リストのもの全部を買い、部屋に戻ると、真夜中を軽く過ぎていた。
ぱんぱんだったお腹も落ち着き、食べすぎはいかんいかんと反省しながら寝た。今日も一日長い日でござんした。
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