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Diary


6月21日(土)

まず、『BUSH』の予約。

リョウコにフロッピーディスクを借りよう、借りようと思って今に至る。

今日こそは借りる。

そして、自分の紺色のシャツを眺めた。

お母さん方親戚が美容院を経営しているのだけれど、そこの美容師さんがもう着ない服がおばあちゃんのところにあって、その中から掘り当てたものだ。

ボタンを変えたらもっと味が出てよくなる、ぜったい!

リョウコと会ってフロッピーをもらうついでにボタンを売っているお店を教えてもらうことにした。

私の知っているリョウコはトレーナー姿にコンピューターに向かって専門的な作業をこなし、彼女の華奢な体には分厚すぎるほどの教科書とにらめっこしている。今日、日光の下で見る彼女はもっと健康的でおしゃれをしていて新鮮だった。

レナもリョウコと一緒にいた。

髪を下ろした彼女はエミリー(宇多田ヒカルが翻訳をしたことで話題になった、黒髪のニヒルで小悪魔的でキュートなキャラ)と瓜二つだ。

人数が増えると楽しい。

裁縫道具のお店に連れていってもらった。

今はボタンが50%OFF!糸も20%OFF!

やったー!

時間をじっくりかけてボタンを探した。

ボタンって普段は注意して見ないけど、いろんな形、サイズ、色、素材があっておもしろい。ポップなもの、ファンキーなもの、レトロなもの、上品なもの。ボタンによってシャツの雰囲気が一気に変わってしまうところがおもしろい。

いろいろ探したあげく、茶色の線が入っているシンプルだけどポイントになるボタンにし、深緑色の糸で縫うことにした。

そして、リトル・コリンズ・ストリート沿いの美容院に寄って来週のカット予約をし、三人で狭い歩道沿いにある味のあるカフェに入った。

朝は目玉焼きとコーヒーしか取ってなかったので腹ペコだった。

そこでリョウコの財布がないことに気付く!

オーノー!大変な事態!

落としたのか、盗まれたのか、財布の中身にクレジットカードは入っていたのか、銀行キャッシュカードは、IDは、現金は…!

が、二人は何の焦りもなく至って冷静。

私だったらまず手足が動いて顔の表情が歪むが、この人たちは常に落ち着いているというか。

レナなんかチェキッ(ポラロイドカメラ)を取り出してカフェの雰囲気を映すために写真を撮り始めるし。

なんてこった。

困惑状態なはずのリョウコと私にカメラを向ける。

向けられると思わずポーズを決めてしまうが、そんなことをしている場合じゃ…。

二人は、財布の行方を日常会話のテンポで続け、途中で浮き出てきた写真の写り具合のコメントなんかをさりげに入れてみたりしていた。

当人より私が心配しても仕方ないので、流れに任せることにした。

ツボな二人。

誰かにこの状況を語りたい。なんて不思議な人たちなんだろう。

リョウコは家にいたショウコに財布を家に置いてなかったかどうかの確認の電話を何回かしていた。同時に今から二人でベビーシットに行く場所のことも話していたので、状況が見えない。まぁ、なんとかなるということだろうか。

それでケーキをリョウコと半分こしようと話になったが、いざオーダーという時に彼女は行かなくてはならなかった。

とりあえずバイバイした。

そしてレナと店を出て、レナらしいお店を散策し、楽しみ、人参ケーキを買って食べ歩きした。

BUSH』はヤラ川の南側のビクトリアン・アーツ・センターで上映される。

開演時刻は8時で、7時からドアが開く。

それまで時間があったのでレナたちの部屋に寄らせてもらった。

リョウコの財布事件、無事解決するといいね、と言うと、

「あ、あったらしいよ。家に」とレナ。

カフェにいる間にもう解決していたらしい。

なんとも。

それはけっこうなことで。

だけど、リョウコは心配の様子も過度に出さなかったが、見つかったときの喜びや安堵もこれまた感じられなかった。

ツボだ。かなり。

レナがクッキーを焼いている間、私は自分の髪で遊んだ。

クッキーをごちそうになり(食べ過ぎ?!)、7時前になったので劇場に向かった。

予約番号をメモった用紙を取りに自分の部屋へいったん寄ってから。

 

ビクトリアン・アーツ・センターは、フルオーケストラなどに使われるメルボルン・コンサートホール、パフォーミングアーツミュージアム、ザ・シアターズ、プレイハウス、スタジオ、そして現在改装中のNGV(ビクトリア国立ギャラリー)から成る。『BUSH』はプレイハウスで上演される。880人収容で、ここではよく戯曲が上演されるらしい。

人がうじゃうじゃいて、みんな上演前の社交を楽しんでいた。ボックスでチケットを取り、フォイヤーにはアボリジニの芸術品が展示されているとガイドブックで読んだので、それをちょっと見てから席を探した。

ぎりぎりに予約したからか一番奥だったけれど、眺めは全然悪くなかった。隣のおばさんは足を組みメモ用紙を用意してあって、ブローシャーを熟読していた。私も自分のを読もうとした瞬間暗くなり、作品は開始した。

先住民族アボリジニの大地の一つにARNHEM LANDというところがあるらしく、そこでは代々受け継がれているDREAMTIMEという世界の創造物語があるらしい。そこからインスピレーションをもらった作品。大地の創造、恵み、美しさ、さらに儀式的要素も含みながら、それらをコンテンポラリーダンスで通すことによって西欧的なコンテクストに織り込み、誌的な表現として舞台にしてある。

プログラムとしては8つのテーマ―一、創造(Wirrkul Manda)、二、ゴアンナ(Djana)(雄のトーテムらしい<トーテム:未開社会の間で世襲的に拝まれる自然物)、三、SLITHER(ずるずる滑る)、四、生命の環、五、STICK(棒)、六、BUSH PERAL、七、羽(But’tju)、八、セレモニー(儀式)―に分かれている。

岩、大地、イモムシから蝶への変態、水、体、あらゆるモチーフが各ダンスにあり、しなやかに表現されていた。

見ていて瑞々しかった。

隣のおばさんは暗い観客席で一生懸命何かをかりかりとメモを取っていた。暗いのに何を書いているのか分かるのだろうか。ま、がんばってくれ、とひそかに応援した。

個人的には、2作目に、生き物に五感が宿る瞬間が表現されている場所があったのだけど、そこのあらゆる刺激に敏感に反応している動作が印象深い。6作目のBUSH PEARLは女性的ななめらかさや弾力がうまく現れていたと思った。音楽は録音されていたものだったが、できるものならば生で聴けたら最高だ、と思った。先住民族についてもう少し知っていたならもっと楽しめたのかもしれない。

Bangarraはこの国に存在するあらゆる先住民族アボリジニに関わる課題に芸術を通して携わってきて、社会的メッセージを含めた作品もよく公演してきたらしい。今回は「社会的葛藤」や「メッセージ」から少し離れて、アボリジニのエッセンスみたいなものを純粋な媒体となって観客に感じ取ってもらいたいという、極めて困難な作業を試みた。

ダンスは、見る分には、時間や空間や陰陽などに関して受容する余地がいつもあるところが好き。

ん?うまく説明できないが。

 要は、見ておもしろかったし、満たされた。ごちそうさまでした。


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